平成26年 山行記録

以東岳(夏山合宿)

 日 程  : 平成26年8月1日〜3日
 パーティ : 水野、遠藤、佐藤、宮崎、高橋(忠)、内田、小林、橋(充)
   記録:橋(充)


 

 山登りをしたいと思い立って、銀嶺山岳会の夏山合宿に参加しました。テント泊も初めてなら、山行の知識も経験も全くない自分にとって参加を決めた時点ではまだ半分、気楽な心もちでした。必要な装備をワクワクした気分で探していました。登山の楽しさ、人が山に登りたい気持ちは何なのか、自分なりに感じ取ろうと考えていました。そして、3日間も風呂に入らず、ほとんど着たきりで過ごした山を下りて、麓の入浴施設で体重を測った時には、3キロ痩せていました。ウォーキングでは達成できなかった領域にたった3日間で到達していました。
 今これを、エアコンの効いた中で、ビールを飲みながら書いています。たちまち、元に戻ることを予感しつつ、2泊3日の夏山合宿を振り返ってみます。

 真夜中に、とある駐車場の一隅にテントを張り、慣れない手つきでマットを敷き、シュラフに潜り込んで初めてのテント泊。小さいテントに4人が頭と足を交互に並べて横になると、目の前には隣で寝ている人の足が見える。テントの中は蒸し暑く、これでは眠れそうにないな、と感じていると、隣からは早々と寝息が聞こえてくる。明日の山登りに備えて眠らなければ・・・と思えば思うほど逆に寝つけないもどかしさ。とうとう一睡もできないまま、合宿初日の朝を迎えた。

 歩き出してすぐに、体中から汗が噴き出てくる。汗をぬぐったタオルが絞れるほど。今どこまで来ているのか、あとどれぐらい登るのか、見当がつかない。初めは周囲の景色や残雪を眺めたり、こんなに汗をかくのは真夏のゴルフ以上だな、などと自嘲したりする余裕もあったが、しだいにザックの重さを感じながら、足元だけを見て歩いていた。気を取り直して、周りの景色も眺めながら歩き続けた。

 登山道の途中で流れ出ている冷たい清水を飲んで、「よし、これで頑張れる」でもまたすぐに、「きつい」と思ってしまう。滝があると、そこは天然のクーラーのような涼しさ。「よし、これでまた頑張れる」でもまたすぐに、「参加したのは無謀だったか」と考えて始めてしまう。堂々とした大木と濃淡の鮮やかな緑、アジサイの花々、谷川の水音。涼しい風も吹いてきて、「これでまた頑張れる」 でもまたすぐに・・・。
 きつい山登りと、さらにきつい『山下り』があることを今回経験した。合宿を通して、自分のことだけで精一杯で、仲間のために何をしたわけでもないのに、それどころか、みんなのお世話になったのに、今、また山に登りたいかと聞かれれば、正直考えてしまう。山登りには自分は向いていないのかと。

 でも、ようやく辿り着いた以東岳山頂で見た雄大な景色は素晴らしかった。山々が織りなすまさに絶景。その景色の一部となって、飲んだインスタントコーヒーは格別においしかった。キスゲやヒメサユリのように、遠くからでもそれと分かるような自
己主張は一切しない、足元に咲く、それはそれは小さな水色の花は美しく、健気だった。キャンプ場の夜、これが星明りというものか、見上げると星の数が十倍にもなったようだ。天の川も見える。振り向けば、ホタルが淡い光をゆっくり明滅させながら飛んでいる。静寂の中に聞こえるのは虫の音と水音だけ。疲れた体に自然に染み込んでくるような心地よい音色だった。大鳥池にはタキタロウという怪魚伝説があることを後で知った。さも有りなんである。この山深いところにある隔絶された池ほど、自分たちの生存を全うできる場所は他にないだろう。今思えば、伝説の巨大魚は本当に実在するかもしれないと信じられる雰囲気だった。それは、大鳥池を俯瞰する以東岳山頂にまで登ったから感じられるのだろうか。そして、何より、自分の足で登る。そのことをお互いが支えあい、気遣いあう仲間との一体感や達成感は普段の生活では感じる機会は少ないかもしれない。気がつけば、『山っていいもんだな』と思っている自分がいる。

 登山の楽しさって、なんだろう。何がこれほどまでに人を惹きつけているのだろう。
 山を登りながら考えていたこと。答えはこれか。